千葉県|TAX市原店
5本柱でバランス良い経営
TAX 市原店(市原自動車センター株式会社)がある千葉県市原市は、房総半島の中央部に位置する。
人口27 万7000 人の工業都市だが、市の面積は千葉県で最も広く、中心部を外れると公共交通が網羅しているとはいえない状況で、生活のためにクルマの必要性は高い地域といえる。北島広実専務は「わが社は昭和54 年の創業で今年35 周年を迎えます。以前は、少し離れた場所で現在オートホンダウイング千葉の店舗として営業しているところに本社を構えていました。
一貫して地域密着で営業を続けていて6000 名の顧客のほとんどは市原市のお客さまで、エリア的には隣接する袖ヶ浦市、千葉市あたりまでです。
たしかにクルマの需要は高い地域ですが、そのぶん競合は年々激しくなっています。
「ビッグモーター」「ネクステージ」「ガリバー」「カーチス」「ケーユー」といった全国ブランドで出店しているチェーン店や多店舗展開しているところが近所に続々と進出してきて、派手な広告戦を仕掛けてきますのでウチのような地場の小規模経営でやっているところにとっては戦々恐々です。
5本柱でバランス良い経営
大手資本と競合していく上で、『マツダ』の新車ディーラーであることと中古車販売では『TAX』の看板がもつブランド効果とユーザーに与える安心感は大きいと感じています」と話す。
TAX 市原店がVC に加盟したのは創業3 年目の昭和56 年で、千葉県で最古参。現在のTAX 市原店の年商は約8 億円で、従業員は15 人体制だ。
「新車から中古車、レンタカーまで、部門を超えてプロフェッショナブルなフォローをする」というモットーの下、マツダオートザム市原北としての新車販売事業、店舗に併設した自社指定工場による車検整備事業、鈑金事業、レンタカー事業、中古車販売事業の5 つの部門で収益の柱を確保しているのが特徴だ。
このうち中古車販売は、在庫車両が80 台前後。新車販売の関係上マツダの高年式の軽自動車を通り沿いに展示しているが、品揃えはオールジャンル。このあたりにも地域の顧客の幅広いニーズに対応したいという経営姿勢がうかがえる。
今後の事業展開について、北島専務はどう考えているのか。
「現状は、中古車販売が3、車検整備3、新車販売2、鈑金1、レンタカー1 といった売上げ比率です。中古車を買っていただけるお客さまのほとんどが地元であるにもかかわらず、つき合いのあるディーラーや整備工場あるいはユーザー車検に流れてしまい、次回の車検の戻りは半数以下という状況です。
これからはますますクルマが売れない時代になってきますので、整備部門に力を入れて売り上げの4 割からゆくゆくは5 割くらいを稼げるようにしていく方針です」と北島専務はビジョンを示した。
「そのために、店舗に気軽に来てもらうメンテナンスをテーマにサービスを企画しました。今年からクルマを買っていただいたお客さんに対して、購入3 ヵ月後に当店オリジナルのオイル交換半額券のDM 送信を始めました。
メンテナンス周期を考え、納車時に手渡すよりあえて時間差を置いたほうが利用する方が増えるのではと考えたからです。リピート率は50%で、顧客の再来店に 効果を上げています。
また、今年の暑中見舞いハガキを使い『エンジン内部洗浄キャンペーン』を実施しました。マツダのサービス用品であるブラッシング剤を使い、オイル交換と同時作業で30%オフと粗品プレゼントを行ったところ、8 月だけで10 名以上の申し込みがありました。
近くにカー用品店もありますが、プロに作業を委託するコーティングや室内除菌、脱臭は1 万円を超える高額です。
そこで3 ヵ月効果が持つボディーコーティング洗車を軽・コンパクトカークラスで2200 円、マツダのクレベリンを使った室内除菌、脱臭メニューを軽・コンパクトカークラス2500 円で用意しました。納車時に声掛けを実践したこともあって、1 ヵ月10 件前後は入庫に結び付いています」と北島専務は新しい試みにも意欲的だ。
新規開拓、集客のための広告戦略にも、徐々に見直しをかけているという。
「折込みや雑誌、グーネット、カーセンサー、自社ウェブサイトやツイッター、フェイスブックといったWeb 媒体などひと通りのことはやってきていますが、そのなかで反響が高いのは、『シティライフ』という毎週土曜日に発行される地域限定のフリーペーパー。
市原市と袖ケ浦市地域だけで8 万部配布されていますが、そこに月1 回定期的に出稿しています。
以前は雑誌広告と同じように在庫車の写真を載せていたのですが、いまはカーナビやドラレコ、ガソリン満タン、東京ディズニーランドのワンデーパスポートチケットなどを期間限定の日替わり成約プレゼントする告知を出しています。地元の方はよくチェックされていると聞きます」。
関口先輩から学んだ段取りと役割分担
TAX 市原店は、北島専務の父親でJU 千葉の第8 代会長を務めた北島久男社長が創業。その後継者として期待される北島専務は、大学卒業後、TAX 本部の教育研修制度「二世研修制度」で自動車販売の基礎を学んだ。
「高校卒業後、一度は整備士をめざして自動車専門学校に2 年間通い、大学に入り直して千葉大学の自動車部に所属。いまでもラリーを続けているくらいのクルマ好きですから、いずれはクルマに関わる仕事につきたいと思っていました。
大学卒業という段階で、TAX 本部に『二世研修制度』というプログラムがあるという話を聞いて……いつしかそういう流れになっていました」と北島専務は参加のいきさつを話す。
「本部の新卒スタッフと一緒の研修内容で一切特別扱いしないという約束で、都合3 年間お世話になりました。いまでもその時の人脈が続いていて、商売上も役に立っています。 印象に残っているのは、最初に配属された買い取り部門での思い出です。
当時は今のようにネットで簡単に各社の見積りが取れる『一括査定媒体』のような便利なツールもありませんし、クルマの買い取りというシステム自体がユーザーにほとんど知られていませんでした。
フリーダイヤルにかかってきた電話に一件一件説明して、営業の場につなげていくしかない。なんとか商談の約束を取り付けて、お客さんの家に飛んでいって査定、見積り金額を提示して買い取れそうだという時に、必要な書類が揃っていなくて後日に出直し。
モタモタしている間に、ディーラーのセールスマンに下取り車両としてクルマを持って行かれて悔しい思いをしたことがありました。
関口智一さん(現TAX 松戸店店長)の部下と して半年間つかせていただいたんですが、先輩から『買取りには名義変更の手続きが必要で、そのために実印が要ります。
ほかにも納税証明書、印鑑証明書といった書類が必要ですので、いついつお伺いするまでに用意しておいて下さいと、お客さんにきちんと説明した上で、念押ししてから訪問するんだ』という指導を受け、営業での段取りの大切さを教わりました。
お客さんの気持ちを酌んであげていくらで売るか買い取るかという金額も重要ですが、きちんと説明することを通じてお客さんから信頼を得た上でないと商談には結 びつかないことを学びました。 いざ段取りを整えたつもりでも、現場で必要書類が用意されていないこともありました。
その際は関口さんが商談している時は自分が書類集めに走り回り、営業の役割分担、チームワークの重要性を実感しました」と当時のエピソードを振り返った。
その後、所沢店、関越練馬店での研修を経て、平成12 年、TAX 市原店に入社。周囲にはいずれ家業を継いで社長になるものと映っていたわけだが……。
「当初は店長がいてその下に入りましたし、店には高校生の頃からイベントなどの時に顔を出していましたので、違和感なく受け入れてもらえました」と北島専務は話す。
その後、専務に昇格。営業部門を統括する立場になると、自らより社歴も長く年上の社員をマネージメントしていかなければならなくなった。
「専務と言ってもウチだと自らも数字を上げるプレイングマネージャー、店長クラスの役割です。全てを自分でやろうとするのではなく、各自の役割分担をはっきりさせて、どの部分で会社に貢献してもらうかを説明、理解させることが大切だろうと思います。
とはいえ、営業(をやった者)にとってはお客さんとの接客商談を通じて、クルマを売るというところが醍醐味でしょう。
ですから、時に年長の方には営業の見せ場をゆずってあげて、その際は私がフォローに回ってローンの予審などのバックアップ役をやるといった配慮も 必要でしょう」とマネージメントの苦労を語る。
北島専務が現場で実践している営業の役割分担は、若き日に「二世研修制度」で学んだことがベースになっている。若者のクルマ離れや自動車業界の縮小傾向を背景に、中古車業界でも後継者の育成をどうするかが課題のひとつになっている。
最後に、固い握手を交わした北島親子の笑顔を見る限り、TAX市原店の事業継承は順調に行われることだろう。